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~第二話⑩~ 緊急事態のline

Author: 倉橋
last update Huling Na-update: 2025-07-30 21:34:50

 ふと気がつくと、荒川先生がスマホを取り出している。

「ごめんなさい」

 あわてた様子で部室を出ていく。緊張した様子だったので、部員たちは顔を見合わせた。

 部室の前の廊下。荒川先生はスマホを手に、思わず口に手を当てていた。

 lineには「田辺成一」の名前があった。

<ご無沙汰しています。彩良のことで重要なお話があります。また今度>

 荒川先生はスマホをしまった。田辺成一からの突然のlineが、荒川先生の心をかき乱していた。

(今、思うと彩良さんって、悠ちゃんを通じて私や朝井先輩に近づき、私たちの研究について調べてたんじゃないだろうか? 防衛大学研究所の田辺さんと結婚したのには驚いたけれど、もしかしたら何か調べるためだったんじゃないだろうか? 突然の失踪も、その調査が終わったからじゃないんだろうか?)

 ずっと荒川先生の心に渦巻く疑惑。そして田辺からのline。

(彩良さんって、どこかの国のスパイだったんじゃないだろうか?)

 荒川先生が現実に戻ったのは、生徒たちからの呼びかけだった。

「先生、今度の夜間観測の打ち合わせするんですけど」

「今、行くから」

 荒川先生はあわてて部員たちの方に戻った。部員たちに説明を始める。だが高蔵彩良への疑惑は、ずっと荒川先生の心に残ったままだった。

 

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